されかけたこともあったが、これくらい何も知らずに働きにきてくれる子は、かえっていじらしく、かわいいものだ。わが家にいるうちに一人前のオヨメになれるだけのことをしてやりたいという責任を感じるものである。
この子たちが都会の子供なみに知っていたのは流行歌である。ラジオのせいだ。どんな歌でも、むしろ都会の子以上に知っている。ラジオのほかに何もないせいだろう。先日も冗談音楽の主題歌をうたっているのをふと聞いたが、なるほどワンマン政府がラジオを気に病むのは自然だなと思ったのである。
デフレを活用した男
私の家から百メートルもないところで珍しい事件が起った。Sという買継商が倒産してつるし上げにあったのである。買継商というのは町のメーカーから織物を仕入れて全国の小売業者に卸す店のことである。Sは戦後の新興業者で商運は好調だった。好調なら倒産はしないはずだが、好調倒産という変ったこともありうることがわかったのである。
Sはさらに一大躍進をねらって計画的に倒産した。折しもデフレの声に、これぞ天の与え、倒産の機会と実行にかかり、この春から着々財産隠匿につとめ、ついに家財道具まで運び去り
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