学からそれぞれ一名の新卒業生を世話してくれて、母親と先生がつきそってつれてきてくれたのである。先生がくりかえしいうには
「本当に何も知らないのですから、それだけはカクゴして下さい」
 見るからに小さい少女たちであった。こんな小さい子供に何かやらせてよいのかと心配になったほどだ。
 私もその村々は一度バスで通ったので知っていた。桐生からバスで一時間半から二時間ぐらい渡良瀬川をさかのぼったところだ。人は飛騨を山奥の国というが、飛騨だって車窓から見る山々には段々畑が見える。渡良瀬山峡の村々には完全に段々畑すら見ることができないので、この土地の人々は昔は何をたべていたろうと不思議に思った村々であった。このあたりの女中が一番長くいつくというのはさもあろうと私も思った。
 電話のかけ方も知らないし、ガスのつけ方も知らない。電話のベルがなると静かに戸をあけて、一礼して
「ただいま電話が鳴っております」
 と報告する。報告しなくたってベルの音はきこえるよ。ゆうゆうたる物腰、雅致があってよかったが、不便でもあった。山の中にも電灯だけはあるから、ガスも電灯なみにセンをひねるだけでよいと心得たのは当然で、殺
前へ 次へ
全34ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング