石にはこのあたりの子供たちがチョロとよんでいる虫が無数についている。ゴカイを小さくして透明にしたような虫だ。ここのアユはそれを食ってるせいでサンマになるんじゃないかと思ったのである。伊東のアユが温泉旅館のカスで育つせいかエサをつけないと釣れないようなものだ。ところが先日漁業組合員の魚屋がきて
「桐生川のアユは日本一ですよ。これがそうですから食ってみて下さい」
「食わなくともわかってるよ。モウモウとケムがでてサンマの味がするんだろう」
「いえ、あれはね、去年はヤナがはじめての仕掛けですからちょっとの出水でしょっちゅうこわれてアユがとれなかったんです。仕方なしに前橋から養殖アユをとりよせてごまかしてたんで。サナギで育ったアユだからケムがでるのは当り前でさア」
正体がわかってみるとつまらない。チョロをくって日本一まずいアユという方がゴアイキョウのような気がした。
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お医者のYさんが女房にすすめた。女中はこの土地の娘にかぎるからとサラサラとソラで三つの中学校の所を書いて学校へ依頼状をだしなさいとすすめてくれたのである。ちょうど卒業期に当っていたのが幸運で、二つの中
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