メンくらったが、窓から吹きこむ山の冷気にもましてそう快でもあった。
こういう海からはなれた温泉地や私の住む桐生などでも今年の特色はマグロのややマシなのがフンダンにあることだ。去年など桐生ではお祭の時でもなければ本マグロが見られなかった。今年は常に本マグロがある。田舎がマグロを食う年らしい。私もガイガー計数管を信用して大いに食っているのである。伊香保では一晩だけだったが、すてきなトロにめぐりあってお代りした。
★
桐生で生きている魚がたべられるのはウナギのほかには夏のアユだけだ。したがって夏の来客へのゴチソウはもっぱらアユだ。去年から桐生川にヤナができたので、ヤナから直接買うことにしたが、焼くとサンマのようにアブラが強くてモウモウと黒煙がたつ。食ってみるとほとんどアユの香がない。へんなアユだが、仕方がないので、友人には
「桐生のサンマアユというやつでね。日本一まずいところが値打なんだ。モウモウとケムがでてアユの香のしないのが珍しい」
といってすすめた。友人たちも食ってみて
「なるほど珍しいアユだ」
とおもしろがってくれた。私は考えたのである。桐生川の川底の
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