から夜明けまでつづく。道路の上は見物席で、めいめいのゴザとザブトンで昼から席を占領した人々でギッシリつまってしまう。私が夜明けに行ってみたら、役者よりも見物人の方が疲れきっていた。
 今年のお祭衣装は一万三千円だったそうだ。織物はお手の物だから生地も柄もソツがない。今年のはチリメンのおそろいだそうで、朝昼晩と装束を変える例になっている。このおそろいをきているかぎり、お祭中はどこで飲んでも芸者をあげても金を払う必要はない。ツケは町会へ行くのである。織物業は目下はなはだ不振で、桐生の町はデフレの上にも不景気らしく、メーンストリートの古いデパートまでパチンコ屋に身売りという昨今であるが、警察の交通整理同様に不景気もこのお祭にだけは歯がたたないのである。

          ★

 さて、この祭の神社であるが、これが何より珍しいのである。
「桐生のギオン祭は何神社のお祭だい」
「祭礼のチョウチンにちゃんと書いてあるだろう。八坂神社のお祭だ」
 ところが私がいくら探しても八坂神社というのが近所に存在しない。よってミコシのあとをつけたところが、すぐ私の家の裏の神社へ御神体を迎えに行き、祭の終りに
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