もまたそこへ納めに行った。その神社は美和神社というのである。大国主のミコトの神社だ。八坂神社ならスサノオのミコトである。この美和神社は平安朝の神名帳にも記載のあるユイショある神社であった。そこで私はチリメンのおそろいをきているダンナにきいた。
「これは八坂神社じゃないぜ」
「八坂神社とよぶことになってるんだ」
「ちゃんと高札をたてて平安朝から名のある美和神社だと断り書きまであるじゃないか」
「社が三ツあるから一ツが八坂神社だろう」
「美和神社の隣はコンピラサマ、そのまた隣はエビスサマだ」
「うるせえな。とにかく八坂神社ともよぶんだよ。だから八坂神社だ」
 このギオン祭は今から二百四、五十年前に京都のギオン祭をまねて盛大にやりだしたものらしい。祭はギオンにかぎるというので祭に目のない連中が新規ににぎにぎしくやりだしたのはよかったが、あいにく八坂神社がなかったのである。大国主のミコトはスサノオのミコトの孫だか子だか弟だかで、また物の本によると同一神の表と裏で、キゲンのよい時が大黒サマ、怒ってる時がスサノオだという説もあるから、美和神社で間に合わしちまえ、ということになったのかも知れない。神
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