臣といふものは、みんな機嫌が悪いのである。
取手の町はづれの西と東に各々一人づゝの怠け百姓がゐて、オワイ屋をやつてゐる。この二人で取手の糞尿一切とりあつかつてゐるのだが、性来の怠け者だから糞尿の汲取も怠け放第に怠けて、取手の町は年中糞尿の始末に困つてゐる。ところが、この二人が、揃つてトンパチ屋の常連なのである。一日の仕事を終へると、車に積みこんだ糞尿を横づけにして、二杯目ぐらゐに忽ち総理大臣になつてしまふ。
この二人はとりわけ仲が悪くもないが、とりわけ仲が良くもない。各々怠け者だから、職業上の競争意識は毛頭なく、あべこべに各々|宿酔《ふつかよい》のふてねをして仕事の押しつけつこをやり、町の人々を困らすのである。丁度僕がゐるときこの二人が総理大臣になつたあげく立廻りに及び各々|肥《こえ》ビシャクをふりまはして町中くさくしてしまつたことがあつた。このとき脂をしぼられて、もう酒を売らないなどゝ威されたので、それ以来相当おとなしくなつたけれども、総理大臣になつて機嫌よく気焔あげてゐるので、この時とばかり俺のうちの糞便を汲んでくれ等と頼もうものなら、忽ちつむじを曲げて、いづれ四五日のうちに、
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