のままだった。
「娘を元にして返せ。オレは金なんか取る気持はないぞ。娘を元にして返すか、さもなくば詫び証文を差出して娘をヨメに入れて一生大事にするか、さアどッちだ」
娘の母親は光也を認めると、また叫んだ。
「ホラ、来たぞ。この悪党。そこの土の上へ坐れ。テンビン棒で百ぶんなぐってやる」
光也は落付きを取り戻せば長い時間をかけて自分の考えを割合にシッカリと述べられるタチであった。もっとも、説明の仕方はうまくはなかった。
娘に暴行を加えたのは五人の学生で、自分はそれを認めて駈け寄ったものだと説明した。その証拠に、五人の学生は逃げ散っている。それは彼らが自分の姿を認めたからで、さもなければ、彼らが逃げ去ることは起り得ないと解釈をつけ加えた。
ところが娘が突然叫んだ。
「ウソだア! みんなが逃げたのは与作が来てくれたからだ。そして、お前だけが逃げそこなったのだ」
「それみろ」
娘の母親は彼の胸ぐらをつかんだ。
「往生際の悪い奴だ。さア、白状しろ。誰と誰がいたか」
そこで光也はつまってしまった。一たびつまってしまうと、もう落付きを取りもどすことはなかなかできなくなる。
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