らないが、見張りの鶴には顔に見覚えがあった。隣村の高校生だ。
けれども、それを云うと巡査の行為をしたことになってしまうという不安が彼を捉えてしまった。彼の全身からまた冷汗があふれだしていた。
「逃げた五人を探して下さい。そうすれば、みんな分ります」
彼は一生懸命にそれをくりかえした。
「よーし。片ッぱしからフン縛って、キサマも当分懲役だ」
呪いの言葉をのこして、母と娘は立ち去った。
この話はたちまち村中にひろまった。その結果、逃げた五人連れの学生を見たというものが現れ、どこの誰それがその一人だったというようなことから、五人の真犯人はつかまった。しかし、それまでには半月ほどの時日を要したので、光也はその期間受難の生活をしなければならなかった。
★
この山中に昔から里人の信仰あつい神社がある。今は県社であるが、大昔の神名帳では大社になっているそうで、この辺の豪族だった国ツ神を祭ったものではないかと考えられている。
光也の家は代々その神官であるが、実は祭神の子孫であるとも伝えられている。もっとも、確実な史料があってのことではなく、彼の家に伝わる系図というも
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