のも、その必要があって百年前ぐらいに製造したらしい怪しいシロモノであった。
 神様の子孫とは云いながら、特に里人の尊敬を受けているわけでもなく、彼の一族が晴がましい思いをするのは、年に一度のお祭の時だけだ。
 この山中では常時オサイ銭があがるということはなく、神社で生活はできなかった。終戦後の現象ではなく、ずッとそうだった。したがって、彼の家の本当の職業は農である。それも中農と小農の中間ぐらい、むしろ小農に近いぐらいの農であった。それと神社の収入を合せて、どうやら子供を大学までやることができたのだ。
 だから光也が学校で学んでいるのは、神社に縁のある学問ではなく、農科であった。今のところ、彼の家のものか、神社のものか、村のものか、ハッキリしない山林があって、その一部はどうやら彼の家の財産に分けてもらえそうになっている。将来その山林に光也の新しい農業知識を役立てようというわけだ。
 彼の父はふだんはただの百姓だが、さすがに事があると神様の遠縁らしい威風を示す習性をもっていた。倅《せがれ》の暴行事件が起ったときには、年に一度のお祭にも見せたことのない高揚した威厳を示した。
「お前はきっと犯
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