人ではないな」
「ウン」
「神様に誓うか」
「ウン」
「では、不浄をたち、拝殿にこもれ。潔白なら神様が犯人を探して下さる。犯人なら神様が息の根をとめて下さる。どっちにしても、それまで外へでられないぞ」
山の下の鳥居をくぐってから、三丁も杉の林をうねって山上へ登らなければならない。光也はセンベイ布団をひッかついでそこを登った。光也が拝殿の中へはいると、父は扉をとじて大きな錠をかけて戻った。
朝晩握り飯と水がとどき、その時だけ大小の用をたすことができた。駐在所の巡査が事件のことで会いにきて、錠のかかった扉をはさんで光也と用談をすませた。そして、
「これは世界で一番オッカナイ牢屋だ」
と呟きながら、汗をふきふき山を降りて行った。
拝殿へとじこもって一週間ぐらいすぎた日のことである。父は朝の握り飯と水をぶらさげて、拝殿の扉の錠をあけた。すると、扉の隙間に一通の手紙が差しこまれているのを発見した。女の筆蹟であった。
「O・Tは悪い女。虚栄と偽懣と無恥。全女性の敵として彼女は軽蔑される。私はあなたの潔白を信じ、彼女に怒りを覚える」
筆者の署名はなかった。
父はこの手紙の意味はだいたい理
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