の言葉を思いだしたからであった。全身から冷汗がふきだしていた。
緒方にあのことを言われてから、光也は緒方のことを思うたびに半病人になった。思わず目マイがしてスッと血の気がひくのである。
緒方の講義にでることができなくなったばかりでなく、校庭でランニングの練習もできなくなった。緒方とカチ合う不安があるからであった。
しかし、郊外にある市営競技場まで練習にでかけた。スポーツの練習を怠ると、その一日不眠や食慾減退や疲労や精神不統一に悩むからであった。そのかわり、柔道の練習を中止した。ランニングと柔道を一しょにやることができなくなったのである。
彼は一週間ほど練習を休んだのち、責任を感じて、正式に退部を申しでた。次の学期から彼は副将に予定されていたからであった。
部長は彼をよんだ。
「なぜ退部するのか」
光也は本心をあかすことができなかった。
「一身上の都合です」
「どんな都合か」
「柔道はもうやれません」
「なぜやれないのか」
「思想の悩みもあります」
「悩みを語ってきかせよ」
「柔道はやるべきではないです」
「なぜ柔道をやってはいかんのだ。つまり、戦争反対かな」
「一身上のこと
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