服の男が一人彼の方を見ているのに目が出会った。
女の悲鳴が起らなければ、気にとめずに通りすぎるところであった。
「イヤダァ――」
という変に間のぬけた女の悲鳴がきこえ、争うざわめきがきこえた。
学生服の男は鶴のように突ッ立って彼を見ているだけで、何もしていない。しかし、その足もとで、女とそして誰かとが争っているのだ。さすれば、そこに考えられることは一ツしかない。この山奥の僻村でも、ちかごろ暴行沙汰が絶えなかった。
光也は思わずカッとして、ズカズカと音の方へ近づいて行った。五六間の距離に近づくまで、鶴はなんの表情もなく彼を観察していたが、にわかに合図して逃げだした。五尺七寸五分、二十三貫五百という牛の図体が物を云ったのであろう。逃げた男の数は五人であった。みな学生服であった。
光也は彼らの居た地点まで駈け寄ったが、にわかに足をとめた。そこに半裸にされた娘の姿を見たからではあるが、彼がそのとき確認したのは「娘の姿」と云うよりも「犯罪の姿」と云うべきであった。
彼はみるみる立ちすくんでしまった。不動金縛りとはこれであろう。彼は羞恥で真ッ赤になった。半裸の娘を見たからではなく、緒方
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