先の神前で云い交すとは話の外だ。
田舎の人々の高声は隣室まで筒ぬけだった。そして、否応なくそれを聞いてしまった光也は尚さら絶望的であった。
その娘はセムシでビッコであるばかりか、一目見ただけで胸騒ぎがするような特別の顔をしていた。鼻も、頬も、顎もとがり、顔全体が一握りほどの小ささで、蒼ざめているのであった。
光也はその娘と云い交した事実はなかった。神前で行われたことだから、いくらでも堂々と否定できると考えたが、キャラメルをもらったことや、つい今しがたまで再会を切望して泣きたいような気持だったことを思うと、云い交したということがイワレのないことでもないと考えられて切なくなってしまうのだ。
「光也! 光也!」
父は腹を立てて、子供をよんだ。光也は是非なく二人の前へ坐った。二人に問いつめられて、ジッと十分間も石のように考えたあげく、
「言い交したとは思いませんが、そう云われても仕方がないかも知れません」
「なぜ仕方がないか」
彼の父は腹を立てた。
「明日、学校へ行ってから、考えてみます」
「何を考える」
「言い交したか、どうか、考えてみます」
「考えなくとも分るだろう」
「クラヤミ
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