したそうだが」
「分った。それでは、これがその娘だ」
 父はしまっておいた例の手紙をとりだして見せた。郵便局長は一見してうなずいた。
「これは娘の手だ」
「あんたの娘はまだ小さいが」
「イヤ。郵便局で事務をとっているのがいる」
「あれはカタワだろう」
「ちょッと背中がまがっている」
「あれはセムシというものだ」
「そう云うこともできる」
「ビッコじゃないか」
「片足も少しわるい」
「ひどいビッコだ」
「多少歩行に不自由はある」
 セムシでビッコの娘であった。
「よくあの足で真ッ暗闇の山道をテッペンの神社まで登ったなア」
 光也の父はことごとく驚嘆して叫んだ。しかし、すぐ気がついて、云った。
「ダメ、ダメ。ウチは百姓だ。百姓のヨメは郵便局で事務をとるようにはいかんよ。朝は早くから台所で水仕事をして、それから野良にも出なければならん」
「しかし、子供同志は云い交している。アンタが文句を云うのは人権ジュウリンだ」
「化け物と云い交すはずはない」
「しかし、クラヤミのことだからな」
 郵便局長はニヤリと笑った。
 光也の父はそれをきくと絶望的な気持におそわれた。有り得ないことではない。しかも祖
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