てみたら、一貫目ふとっていた。
「朝晩三合ずつの握り飯を平らげて寝て暮せば、豚でもふとるわ」
 たしかに、そう結論するより仕方がないらしい。
 彼は落胆した。半月の希望にみちた生活だった。人々に捨てられた文字通り暗い孤独な生活であったが、そのために、ひそかにだきしめて育てた希望は大きかったし、なつかしかった。それが全然ダラシなく足もとから崩れているのだ。
「あの女に会いたいな」
 それしかないような気がした。これさえあれば、とも考えた。女の指の冷めたさが、まだ掌に残っていた。それを思いだすと、女が何者とも知れないこと、地上の誰も経験したことのないいたましい悲劇のように思われた。
「オレだけ運がわるいのかな。どうもそうらしい気がするが、こういう悲観的な考えは人生に害があるだけかも知れない」
 彼はそんな風に考えて、自分の人生を好転させようとする努力を忘れなかった。
 明日は新学期で、学校の寄宿舎へ旅立つという晩、村の郵便局長が彼の父を訪ねてきた。彼の娘を光也のヨメにもらってくれないかというのであった。
「実はな。光也君が拝殿へ閉じこもっているとき、キャラメルを持って見舞いに行って、云い交
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