のことだからな。ゆっくり考えた方がいいぞ」
 郵便局長はニヤニヤ笑って云った。それからドッコイショとミコシをあげて帰ったのである。
 翌朝光也がバスのあるところまで一里ほどの山道を歩いて行くと、
「オーイ」
 木陰から郵便局長が現れて呼びとめた。そのかたわらに小さな動物がうごめいたが、それが娘であった。
 娘は尖った顔の中でそれだけがくぼんでいる目を大きく見開いたが、全然そこには情熱もなく、物を云う目でもなかった。
 娘はやせた手をワナワナとフトコロへ突ッこんで、キャラメルの大箱をとりだした。それを黙って差しだした。光也が片手を差しだすと、その掌へ振らせた。やっぱり指は冷めたかった。
「よーし。これで、すんだ。よかった。よかった。着いたら手紙をよこせ。切手代はまけてやるぞ」
 郵便局長は大声ではしゃぎながらドッコイショと娘を背負った。
「病気ですか」
「そうだ。恋わずらいだ」
 娘を背負って、スタスタ歩き去ってしまった。
 バスの中で、もらったキャラメルのフタをあけようとすると、字が書いてあった。
「あなたのお帰りの日まで生きられないでしょう。芳子」
 見覚えのある字であった。
「フー
前へ 次へ
全26ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング