くぐっているのか」
 と意外な疑問を発して、教授会をシンとさせたことがあったのである。
 緒方は校庭の牛を眺めながらイマイマしそうに考えた。
「果して彼に生きる目的があるのか」
 別に憎いわけではないが、あの不死身の精気がなんとなくバカバカしくて仕方がない。
 冬の寒いたそがれであった。山寄りの土地だからただでも寒気がきびしいのに、カラッ風が最高潮に達して吹きまくっているから校舎は鳴動し、ストーブにいくら石炭をついでも、一陣の隙間風が吹き通ると、鋭い刃物で骨のシンまで斬られたような痛みを覚える。
 カラッ風というのは地域的に毎日のように吹く風であるが、その最高潮に達したときには秒速二十メートルをこえ、ちょッとした颱風《たいふう》と同じぐらいの荒れ方で、腕の太さの枝をポキポキ折って吹きとばす。今がその最高潮であった。
「牛がランニングシャツ一枚で走っているから、人間も外套を着れば歩けるだろう」
 緒方はこう呟いて家路についた。校庭をハスに横切ると半分以下のミチノリでわが家に達する。
 彼が校庭にさしかかったとき、牛が再びラストスパートをかけてゴールに達したところであった。骨をぬかれたのか
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