った。女の指と知らなければ、ゾッとして気を失うかも知れないような薄気味わるい冷めたさだった。
しかし、女がこんな冷い指をしているのは親切のせいだと思ったので、彼ははじめて女に親しみを覚えた。
女は無言で一ツずつキャラメルを押しこんだ。そのたびに、ちょッとの間、指を掌に押し当てた。
自然に光也は数を算えていた。キャラメルは十を越した。十一、十二。
「大箱だな」
感謝の気持で、彼は女に云った。女はそれに勢を得たのか、益々せッせと無言でキャラメルを押しこんだ。彼が二十かぞえたとき、女が溜息をもらしたので、彼は女に悪くなった。
「君は食べたくないのか」
「…………」
「すこし返そうか」
「なぜ」
「二十そっくりもらうのは悪いよ」
「かぞえていたの?」
「君が欲しければ半分返すぜ」
「いいわよ」
「オレがここに居ること、どうして分った」
「村の人はみんな知ってるわ」
にがい思いがこみあげた。浮世の事情を知ることは甚だよろしくないのであった。
「もう、帰れよ。女が夜こんなところを独り歩きするのは良くないことだ」
「帰るわよ」
女は力のない返事をした。しかし、モジモジしているようであった
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