棲しているのかい」
「いいえ。ときどき泊りにくるのです。あの子たちは自分の住居がありませんから。間借りしている子もいますが、宿なしの子もいるんです。お客があるときは一しょにホテルへ泊りますが、アブレると眠る家がないのです」
「どうして君のところへ泊りにくるの」
「マーケットで、自然、知りあったのです。ぼくのアパートはマーケットの真裏ですから」
「日本も変ったもんだね」
「ハア」
 長平の無量の感慨は放二には通じなかった。この青年にはその現実があるだけだ。素直に、そして、たぶんマジメに、彼は生きているだけだろう。
「君、地回りかい」
 放二はクスリと笑っただけである。
「地回りに、なぐられないかい」
「まだそんな経験はありません」
 二人の会話は重点がずれているようだ。放二にとっては、なんでもない平凡な生活のようであった。
「先生。いちど遊びにいらして下さい。パンパンたち、御紹介します」
「変った子がいるの?」
「べつに変ってもいませんけど、簡単にイレズミを落すクスリができたら、喜ぶでしょうね。はやまって彫って、新しい恋人ができるたびに後悔してるんです」
「君も恋人かい」
「いいえ」
 
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