放二はアッサリ否定して、話をつづけた。
「一人だけ、先生が興味をお持ちになるかも知れません。この子のことで、男が三人死んでます。外国人も。殺したのも、殺されたのも、自殺したのもいますが、みんな、ピストル。そして、三ツの場合ともこの子の目の前で行われたのです」
「妖婦なのかい」
「いいえ。無邪気な子です。まだ十九、可愛い顔をしています」
放二の言葉は淡々として、つかみどころがない。きいただけでは、父兄がわが子を語っているようで、長平はくすぐったいような変な気持だ。すると、放二の言葉がつづいて、
「いちど見てごらんになりませんか。美しいとお思いになるかも知れません」
五
数日後、二人は中央線の某駅で降りた。零時ごろである。銀座と新宿の梯子酒のあとだ。のめない放二は二三杯のビールで耳まで真ッ赤であった。
マーケットで、放二は一軒のオデン屋をのぞいた。四十がらみのオヤジが帰り支度をしていた。
「オジサン。おしまいですか」
「ヤア。いいゴキゲンですね。オデンにしますか」
「ええ。お酒と。持って帰りたいのです。お客様がありますから。こちら、大庭先生です」
「ヤ。それは、それ
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