だろう。
「娘の感覚は特殊なものがあるよ。ねえ、北川君。何かしら嗅ぎつけたことがなければ、君に細君があるなんて疑ぐりやしないぜ。奴め、何を嗅ぎつけたのだろう?」
「はア」
 放二はみんな長平に語ろうと思った。記代子にもれるかも知れないが、知られて困るようなことでもないのだ。

       四

「べつに秘密にしていたワケじゃないのです。男の友達はみんな知ってることなんですが、女の方には、知られていけなくはありませんが、柄のよいことではありませんから」
「なんだい、それは?」
「ときどき、女たちが遊びにくるのです」
 放二は微笑している。長平はそれを素直にうけとった。女たち。放二は「たち」と云ったはずだ。なにか意味があるに相違ない。
「女たち、ね」
「ええ。泊りにくるのです」
「女たちがかい」
「ええ。パンパンです」
 長平もちょっと二の句がつげない。この青年からパンパンという言葉をきいても、全然不釣合いで、架空の話をきかされているようである。パンパンが遊びにくる。泊って行く。アベコベだ。しかし、戦後派の神話的な現実が実存しているかも知れないので、長平も思い余った。
「君、パンパンと同
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