間というものが個人に与える特別の威厳というものを、眼中に入れるな、ということを、戦地の経験によって身につけていたのである。対等以上の存在を考える必要はないのである。
「女の心理というものは、妙なものですな。女というものはツマラヌ人間である、ぼくがこう判断したのがマチガイかどうか、ひとつ聴いていただきたいものですよ。しかし、ぼくも、オッチョコチョイには相違ありません。ぼくが記代子を好きになったのは、犬庭さんの姪であるということ、これが重大なる理由なんですなア。ダンサーでも女給でもパンスケでもない。ぼくらの身辺にはちょッと見かけない女性で、有名な人の姪だというので、大そう熱ッぽい思いになる。ぼくらは、そんなもんですよ。で、まア、愛した、惚れた、といえば、それにマチガイはないのです。一週間か十日のことですがね」
 エンゼルは深い目を、無感動に、ジッと長平の顔を見つめていた。
 エンゼルが身に現しているものは、対等ということの明確な表示である。年齢の差も、知名人という架空な尊厳も、眼中にいれていない。お前の持てるだけの力量と、オレの力量と、掛値なしの裸でテンビンにかゝってみようじゃないか。オレ
前へ 次へ
全397ページ中289ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング