この住居は借家。特に書画と名のつくものは、何一つ持たないのさ。君はどんなものが、お好きです」
「ぼくはこの、まだ若僧で、観賞力もないものですから、閑静な隠居家がすきですが、又、華やかな色彩、調度が好きなんです。サビとか、渋いということが分らぬわけではありませんが、どうしても華やかなものに気をひかれる。それで調和いたしません。この矛盾、これは悪いことでしょうか」
「好き好きさ。それだけ自分の好きなものが分っていれば結構さ。好きなようにやるのが道楽だろう。で、君の御用件は、なんですか」
 この男が何の用できたのだろうと思うと、なんとなく早く知りたくて仕方がなかった。
 エンゼルは困ったという笑いを見せて、
「どうも、そちらから、きりだして下さると思っていましたが、御催促とは、どうも、ちょッと、勝手ちがいで……」

       二

 エンゼルはゆっくり身構えを立てなおした。彼は大人を買いかぶってもいなかったし、世間的に知名な大人を特別な大人だとも思っていなかった。中隊長だの部隊長だのというものが、その階級によって与えられていた威厳を取り去れば、ダラシのないウスノロにすぎないじゃないか。世
前へ 次へ
全397ページ中288ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング