るが、下の方へは降りてこない。照らす人も見えないが、客席の様子も知ることができない。
 二本の光は天井を交錯しながら、ジリジリと客席の方にすすんでくる。誰かが両手に懐中電燈を握りしめて、こっちへ歩いてくるらしい。
 長平の左腕に誰かの手がふれた。軽くさするように這い降りる。そして、長平の手がやわらかい女手に握られた。せつ子の手だ。
 長平はされるままになっていた。光の主は客席の前にせまっている。二本の光芒は客席の真上をクルクル狂いみだれている。
 客席には微かな音もなく、長平の四囲からなんの気配も感じることができなかった。ただ左手が、かるく、あつく、女の手に握られているだけであった。
 色仕掛かな。ローソクの趣向もそのせいかな、と、長平は思った。これから何事が起るのだろう。何かが起るに相違ないが、ただ成行を見ていることだ。握られた手のくすぐったい感触は彼の酔心持をなまめかしく掻きたてた。
 光源は客席の前まで迫ったが、何事も起らない。光はいたずらに天井を駈けめぐり、光源はすでに後退をはじめた。ついに下座のドンヅマリへ後退した。光の動きがゆるやかになり、のろのろと天井を這い、光源の真上で
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