れるとは限らないが、自分の生活を見てもらって、ありのままの自分を知ってもらうことである。
 放二は夜の新宿の仕事場へエンゼルを訪ねて二度目であった。エンゼルを自宅へ誘い、オデン屋でビールとツマミモノを買って、アパートで酒宴をひらいた。
 連日雨もよいの悪天候で、女たちはアブレがちであった。
 新宿から飲みつゞけで、エンゼルは酔っぱらった。
「ちょッと、お忍びのアパート住い。結構ですねえ。ハッハ」
 エンゼルは醜い女たちには目もくれず、ルミ子の顔から視線をはなさず追いまわしていた。
「ぼくなんか、こうは、できませんや。腕がちがうんですな。ぼくは商売の都合で、野郎どもの面倒をみていますが、あなたは風流の志で、パンスケを養って、かしずかれていらッしゃる。貴族は女中が好き。ねえ。汚いアパートに身を落して、パンスケにかしずかれて、結構ですねえ。お金なんざア、左ウチワでころがりこむんだ。大金持の女社長に可愛がられてね。家なんざ、わざと買ってもらわないね、この人は。この汚いパンスケ・アパートへお忍びぐらし、乙な人だなア」
 エンゼルの視線は、喋りながらも、ルミ子から、はなれなかった。
 ルミ子には、エンゼルの薄ッペラな正体がアリアリ見えた。ただのヨタモノにすぎないのだ。記代子にほれているわけでもない。ヨタモノのチャチな下心があってのことだ。
 およそヨタモノという連中が常にそうであるように、酔っぱらって、そこにちょッとした女がいて、タダでモノになりそうな事情があるから、モノにしようとしているだけのことである。
 エンゼルは、放二を眼中に入れていないのである。また、放二によって代表された長平やせつ子のことも。成行きで、バツを合せているだけのことで、こんな青二才とつきあってやるからには、酒をおごらせて、女の世話をさせるのが当り前だと思いこんでいるだけなのである。
 穏便に事が運ばなければ、放二を殴り倒しても、ルミ子とタダで遊んで、青二才にこんなところまでつきあってやった駄賃をかせいで帰るであろう。酔わないうちはそうでもないが、酔ったが最後、これがヨタモノの本性であり、駄賃をかせぐまでは、血を見たぐらいじゃひるまない。
「あんた、好男子ね。もてるわけね。私と遊ぶ?」
 ルミ子はツマミモノを食いながら、エンゼルにナガシ目をくれた。
「お嫁さんを貰いたてだって、浮気ぐらいはするもんよ。ビー
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