て、智恵をかりようなどゝは考えていなかった。放二のようなお人好しに、まともに相談しかけても、埒があくものではない。こういう人間には、ただ、命令するのが何よりなのだ。
「ずいぶん苦心したでしょう。でも、あなただから、捜しだせたのです。青木さんをごらんなさい。煩悶の様子は深刻そのものですけど、埒があかないじゃありませんか。ずいぶん疲れてらッしゃるようね。しばらく涼しい土地へ行って、ゆっくり休養してらッしゃい。十日でも、二週間でも、もっと長くてもかまいません。その間に、記代子さんのことは、ハッキリ話をつけておきます」
こう云って、せつ子は放二に多額の賞与を与えた。
「話をつけるッて、どんなふうに、でしょうか」
「それはあなたに用のないことです。あとは私が致します。秋口に、あなたが涼しい土地から戻ってきたとき、記代子さんも戻ってきています。ですが、記代子さんは、先からズッとそこにいたのですよ。あなたが、涼しい土地へ旅行していたので、しばらく会えなかっただけなのです」
放二は考えた。せつ子は行動的である。ためらわないのだ。言った言葉は必ず実現するだろう。たとえ、街のボスが相手でも。
せつ子の手腕は非凡であるが、彼女が往々相手の力を見あやまるのも事実なのである。ヨタモノ相手にその手腕を正当にふるいうるかどうかは疑問であるし、記代子のことを考えると、せつ子の考えているらしいことが、一そう妥当でないように見える。
しかし彼がどう言ってみても、せつ子の決意をかえさせるのは不可能なのだ。
「旅行の前に、四五日東京で休養してみるつもりですが、何か御用はありませんか」
「いいえ。ひとつも」
早く山の温泉へ行けとせきたてるように、せつ子は放二をきびしく見つめた。まさかムホン人と見破った目ではないだろう。放二は心にさびしく笑った。怒られてもかまわない。エンゼルをせつ子の敵にまわさぬように、彼はひそかに暗躍する覚悟をかためていた。
四
放二は必ず面倒が起ると予期していたが、自分の力で、どうする才覚があるでもなかった。
まず出来そうなことゝ云えば、エンゼルに、自分という人間を信じてもらうことだけである。しかし、マゴコロの袋のようなものがあって、それを開いてみせると人が信用してくれるという便利な手段はないのである。
自分を知ってもらうという手段があるだけだ。信じてく
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