せうよと、男達がほろ酔ひになり、青々軒が浪花節だの清元だのと唸つてゐると、舟木と間瀬と花村が跫音《あしおと》を乱してドヤドヤとなだれこんできた。彼等は泥酔してゐた。一座はまつたく乱れて連絡のない交驩《こうかん》、唄声が入り乱れてゐるうちに、わづかのキッカケで間瀬が太平に詰め寄つて、貴様は帰れ、と叫んでゐた。かねて間瀬の人柄を憎んでゐたヒサゴ屋が、太平に対する同情よりも個人的な怒りから立上つて、面白くねえ野郎だ、貴様ののさばるのが俺は何より嫌《きれ》えなんだ、と威勢はよいがよろけてゐる。同じやうによろけてゐる間瀬を兄貴分の花村が押へて、落合さん、俺は君が好きなんだ。俺は船乗りで海を眺めて暮してきたが、君は海に似てゐるなア。君はいゝ。君の横から太陽がでて沈んで行くのだ。吾は知らず、たゞ茫洋たり、といふやうだなア。間瀬が花村に飛びついたので喧嘩になるのかと思ふと、間瀬は肩に縋りついて泣きだした。その間瀬を花村は抱き起して、モン・ブラーヴ・オンム(好漢)マドロス・ダンスをやらうぢやないか。ハムブルグでもマルセーユでも我等の鋪甃《しきいし》を踏むところ酒と女と踊は太陽と一しよについて廻つてゐたの
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