い言葉で、言葉だけの意味からいへば、純粋などとは意気とか粋の反語にすぎず、太平の武骨や粗雑さを確認するにすぎないやうな意味でもあるから、人々の皮肉な苦笑を生むだけのことだ。
 太平の方も、キミ子の魅力に惹かれるところは少かつた。十人並よりは美人であるが、特に目を惹く美しさではない。芸者あがりの立居振舞、身だしなみには流石《さすが》に筋が通つてゐるが、教養は粗雑で、がさつの性であり、舟木の所謂「化粧された精神」などとは凡そあべこべの低い女だ。二十七の小柄な敏捷な身体に肉慾をそゝる情感は豊かであつたが、概していへば平凡の一語につきるあたりまへの女である。内外ともに顧みて舟木や間瀬の嫉妬をうけるいはれの分からぬ太平であつたが、そのために深く気にとめることもなく、こだはる気持も少かつた。
 ある黄昏、例の電話に呼びだされて出向いてみると、その日は庄吉が十日ほどの商用に出発したとのことで、青々軒とヒサゴ屋だけが姿を見せてゐた。こんな無礼講じみた集りにも党派めくものが生れるもので、青々軒とヒサゴ屋はどちらかといへば太平に好意を示してゐた。今夜は外の連中は来ない筈だから気の合つた人達だけでお酒にしま
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