やないかな、といつた。その花村や舟木や間瀬や小夜太郎らは庄吉も一しよにキミ子を囲んで伊豆や富士五湖や上高地や赤倉などへ屡々旅行に出たといふ。キミ子が彼等の先頭に立ち、短いスカートが風にはためき、まつしろな腕と脚をあらはに、青空の下をかたまりながら歩く様が見えるのだつた。すると花村も舟木も間瀬も小夜太郎も、一人々々が白日の下でキミ子を犯してゐるのであつた。陽射のクッキリした伊豆の山々の景色が見え、その山陰の情慾の絵図が鮮明な激しい色で目にしみる。その絵図を拭きとることが出来ないのだつた。悔いと怖れと憎しみがひろがり、その情慾の代償がたゞ永遠の苦悶のみにすぎないことを知るのであつた。
その翌日は、すでに太平は青空の情慾を意識して多摩川へ急ぐ自分の姿に気づいてゐた。キミ子の腕や脚を見ると、色情のムク犬のやうにただその周りをあさましく嗅ぎめぐる自分の姿が感じられて、憎しみが溢れてくるのであつた。
彼は思ひきつて上流までさかのぼつた。そのための肉体の苦痛が、こみあげる怒りと共に、近づく情慾のよろこびを孕み、奇怪な亢奮を生みだしてゐた。そこは見知らぬ土地だつた。飛ぶ鳥の姿もなかつた。太平は破れ
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