、と庄吉は太平をうながしてわが家へ連れて行つたが、二人のつながりの発端は以上に述べたこれだけである。一度うちへ招待したいと思つてゐたのだ、とその日も庄吉が言つてゐたが、路上で邂逅した偶然を差引いても、早晩二人のつながりは一つの宿命を辿らざるを得なかつたであらう。
 それから数日の後にキミ子(庄吉夫人)からの電話で、集りがあるからぜひ遊びに来てくれといふ。その席で講釈師の青々軒、船長の花村、機関士の間瀬、俳優の小夜太郎、工場主の富永、料亭ヒサゴ屋の主人などと近づきになつた。音楽家の舟木三郎は最も目立たない一人であつた。
 それからは二日目か三日日ごとにキミ子の電話で呼びだされる。同じ顔ぶれがたいがい顔を揃へてゐて、麻雀の者、碁を打つ者、花牌《はな》をひく者、拳《けん》を打つ者、酒を飲む者。庄吉の田舎訛の大きな声はこの部屋の最大の騒音であつたけれども、少しく注意して眺める人なら、実は彼のみが唯一の異国の旅行者で、この席の雰囲気からハミ出してゐることに気づくはずだ。一座の中心はキミ子である。彼女は芸者あがりで、この顔ぶれの半分ぐらゐがその頃からの知合ひだと分かつたのは後日のことであつた。
 
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