たゞ、遊びだよ。ネ、落合さん。人生は朝露の如し。ネ、たゞ遊びあるのみ。さうではないかね。遊びながら我等は死ぬのさ。いざ諸人《もろびと》よ、おゝ、さらば愛さんかな、唄はんかな、それだけさ」
さうさゝやいて帰りかけたが、戻つてきて、腕つきで太平を抱くまねをして接吻の音だけさせて、アッハッハと笑ひながら階段を登つて行つた。太平が座へ戻ると、それを迎へた花村が、
「落合さんは純情だよ。彼は濡縁にしよんぼり立つてゐるのさ。濡縁にしよんぼりなどとは古風な芸者かなにかにあるが、ところが落合太平にはそれが場違ひぢやないんで、僕は惚れ直したといふわけさ」
すると片隅の舟木が開き直つて、
「彼には古風なところがあるのさ。然しそれは純粋といふことではないね。いはば田舎者なんだな。木綿のゴツゴツした着物かなんか着て、つまりそこのところに芸者の姿と対照的にマッチするものはあるがね。田舎風な律義さが一応の文化的教養を背負つてゐる奇妙な効果で人目をはぐらかしてゐるだけのことぢやないか」
その憎悪は決定的であつた。そこにも嫉妬はあつたが、下からの嫉妬でなしに、上に立つて、見下しながら憎んでゐた。そして、その時か
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