せぐ手がない。二階へ上る。書斎の唐紙をあけると、さすがの林忠彦先生も、にわかに中には這入られず、唸りをあげてしまった。
彼は然し、写真の気違いである。彼は書斎を一目見て、これだ! と叫んだ。
「坂口さん、これだ! 今日は日本一の写真をうつす。一目で、カンがあるもんですよ。ちょッと下へ行って下さい。支度ができたら呼びに行きますから」
と、にわかに勇み立って、自分のアトリエみたいに心得て、私を追いだしてしまった。写真機のすえつけを終り、照明の用意を完了して、私をよびにきて、三枚うつした。右、正面、その正面が、小説新潮の写真である。
昨日、未知の人から、こんな年賀状をもらった。
新年おめでとうございます。
どうも先生は私より二十何年か先輩でありますから、大兄もヘンだし、安吾さんもおかしい。失礼と存じまして、先生と呼んだんで、根が小心者なので、呼び方から、おッかなびっくり、然し今日は二十三年の一月二日、大変よい日と思いましたのは、書きぞめの日だからであります。
先生の作品はだいたいに私の気持と共通し、安吾もなかなかヤリおると深い感動に打たれておりますが、まだいくつも読んでいません。
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