なぜなら、雑誌二十円は高い。単行本にまとめて読んでやろうと思っていると、七十円八十円では、私はルンペンだから手が出ず、借りて読むという手があるから、マア、だいたい読んでる次第です。(中略)
 しかし、先生は正直ですね。おだてるのではないが、全く、正直ですよ。そのショウコが、昨年三十一日、私は小説新潮を見ました。モウレツな勢いで机に向っているのが出ていました。写真がですよ。机の四方が紙クズだらけで、フトンもしきっぱなしになってました。
 私は見ているうちにニヤニヤしました。やってるな、なかなか、いいぞ。あのフトンの上に女の一人も寝ころばしておけば、まア満点というもんだが、安吾もそこまで手が廻らんと見える。けれども、とにかくいいぞ。度の強い眼鏡の中の鋭い目玉、女たらし然と威張った色男。ちょッといけますな。この意気、この意気。
 先生の小説が騒々しいのによく似てる。ガサツな奴は往々にして孤独をかくしているという、それなんですね、先生は。
 あれは天下一品の写真だから買おうと思いましたが、二十円だから、やめました。いやどうも失礼なることを書きならべ申訳ありません。(下略)
 この手紙の主は、東
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