に、ほとほと厭気さすばかりであつた。
人々がものの三四十間も歩いたころ、うしろに奇異な大音響が湧き起つた。低く全山の地肌を這ひわたる幅のひろいその音響を耳にしたとき、すでに人々の踏む足は自ら七八寸あまり宙に浮き、丹田に力の限り籠めてみても、音の自然に消え絶えるまで、再び土を踏むことができなかつた。
驚いて、草庵の方を振返ると、和尚は柱に縋りつき、呼吸は荒々しくその肩をふるはせてゐた。
再び大音響を耳にしたとき、和尚の法衣は天に向つて駈け去るが如く、裾は高々と空間に張りひろがり、人々の足は自然に踏む土を失つて、再び宙に浮いてゐた。
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庵寺《あんでら》の屁つこき坊主はの
山の粉雪も黄色にそめ
春のさかりに紅葉もさかせ
おないぶつに尻《けつ》向けて罰《ばち》当りとは面妖な
仏様も金びかりなら
目出度い 目出度い
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あるとき、和尚に依頼の筋があつて、草庵を訪ねた村人があつた。
訪ふまでもなく、坐禅三昧の和尚の姿が、まる見えであつた。
「お頼み申します」
と、訪客は和尚の後姿に向つて、慎しみ深く訪ひを通じた。趺坐の和尚に微動もな
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