る業と思い、それほど研究熱心なら、モッケの幸い、ともに手をとりあって肝臓炎の正体をきわめたいと思った。
 そこで一日、軍の治療所を訪れて、軍医部長に会い、
「毎日全従業員の検便しておられるそうですが、御熱心な研究態度には、まったく敬服いたしております。医者がみなそのようであれば、病人はどんなに幸福でありましょうか。また一国の健全な発達も、それによって、どれぐらいソクシンされるか分りません。しかし私の診断しましたところでは、便から病菌はでないように思われます。けれども彼らが、たしかに伝染病であることは疑いのない事実で、私はこれを流行性肝臓炎と名づけております。それは流行性感冒に随伴して起る肝臓炎で、肥大と圧痛をともない、伝染力をもっていますが、その病源菌はまだ分っておりません。私は昭和十二年末から、この特異な肝臓疾患に気がつきましたが」
 と、今までの研究をくわしく打ちあけて物語り、
「軍の全盛時代に当って、軍医の方々がかくも仕事に良心的で研究御熱心の態度を拝見して、感激の極に達するとともに、かくも御熱心な皆様方の御協力を得ることができれば、流行性肝臓炎の正体を解明することもできようと、
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