ヤ、絶対に大丈夫ですよ。肝臓以外にはどこにも悪いところがありません」
そこで主人は女中をつれて立ち去った。
これが事件のはじまりだ。
主人と女中の報告をきいて、全従業員は結束して、隔離反対を陳情した。赤城先生がシサイに全身検査をして、チブスの疑いなしと診断したのだから、隔離をうけるイワレはない。これが従業員の言い分だ。
けれども軍医がチブスと診断して隔離を命じたのだから、そんな陳情は通らない。一同は隔離されたが、赤城先生がシサイに診察してチブスでないというものを、隔離室にいられるものかと、一同は勝手にぬけだして、毎日町へ遊びにでゝしもう。カンカンに怒ったのは軍部である。
軍の命令に服従せず、威信を傷けた憎ッくき奴。その元兇こそは赤城風雨という亡国の肝臓医者だ。ただではおかぬ。見ておれ。
そこで全従業員の便をとり、毎日毎日、風雨ニマケズ、これを執拗に東京の軍医学校へ送る。軍の威信にかけても、どうしても従業員の便の中からチフス菌を出そうというのだ。
赤城先生は毎日毎日全従業員が検便されていることを知ったが、自分に対する報復の一念からだとは気がつかない。軍医たちの研究熱心がさせ
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