つらつら打ち見たところ、素人目とは云いながら、女中は顔も不健康とは思われず、動作におかしなところもなくて、どうもチブスらしく思われない。
 そこで主人は女中をつれて赤城病院を訪れた。主人はわざとチブスのイキサツを隠して、ただなんとなく様子がすぐれないようだから、徹底的に調べていただきたいと申出たのである。
 赤城先生は乞われるままに、シサイに全身を診察した。そして、病気は流行性肝臓炎ひとつだけで、他にどこも悪いところがないと見究めたので、
「しばらく注射と服薬して、食事に気をつけていれば、まちがいなく治りますよ」
 と言ってやると、
「そうですか。本当に肝臓だけでしょうか」
 紫雲閣の主人は、心配そうというよりも、真剣そのものの顔である。
「たしかに肝臓だけですとも。心配なさることはありません」
「チブスや赤痢ではないでしょうね」
「絶対に大丈夫」
「チブスや赤痢じゃないかと心配したのですよ」
「その御心配はありませんよ」
「そうですか。ありがとうございます」
 主人はホッとしながらも、まだ、なんとなく心に疑念がとけないらしく、
「チブスになったら、どんな風になるものでしょうか」
「イ
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