問状だ。
 つまり、この係員は、町の人々が先生を肝臓医者とさげすむように、先生の患者がみんな肝臓病だからインチキだと思っているのである。先生はそこに気がついたから、さッそく返事を送った。

 拝復 昭和十七年四月十五日附御照会の件拝読|仕《つかまつ》りました。葡萄糖注射が肝臓疾患治療に欠くべからざるものなることは医者の常識ですから、御照会の件は、小生申告の患者の殆ど全部が流行性肝臓炎なることに御不審なされての上のことかと拝察いたしますので、それについて御答えした方がよろしいかと存じます。
 小生診察の流行性感冒患者に亜黄疸又は中等度の黄疸があって肝臓の肥大ならびに圧痛を伴うことに気付いてから四五年、急激にかような患者が増加いたしております。当地に於ては、赤城氏性肝臓炎とも、オーダンカゼとも流行性肝臓炎とも呼ばれております。まことに流行性肝臓炎の名にふさわしく全国的にビマンしているのですが、小生以外の医師からは、流行性肝臓炎の病名を記載した健康保険報酬請求書が一枚もないのではないかと憂えております。流行性肝臓炎がかくも猛威を逞うしている時に、これに適当した治療が行われていないことは、病人
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