って先生が座につくと、又一人、スックと立った人がある。九条武子の建設した「あそか病院」の院長、大角先生である。
「ただ今のお話は、私もこの日頃痛感しておりました事実で、近年の流感患者はすべて肝臓疾患あるものとみてよろしいようです。前にスペインカゼが流行の折も、肝臓肥大ならびに圧痛があって、これが今日残っている人があり、こういう患者に、あなたはスペインカゼをやりましたね、ときいてみれば、先ずこの推定に狂いのないことが分るのであります」
大角院長はズバリとこう言って席についたが、これは赤城先生の日常最も経験していたことだから、その感動、感謝、涙を流さんばかりである。あまりのことに、感謝すべき言葉もなく、ただ立ち上って、
「まことに、ありがとうございました」
それが、精一パイであった。
そのとき恩師の大先生は、破顔一笑、
「今日の座長は私ではなくて、完全に赤城風雨先生だったね」
と、やさしい目で赤城先生を見られた。赤城先生は穴にはいりたい思いをしたが、長崎医大の角尾教授、あそか病院の大角院長、いずれも肝臓に関する権威者であるから、その賛成と激励を得て、千万の味方を得た思い、心の奥深く
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