、恩師の大先生の謝恩会が門下生によって催される日であった。先生のすむ伊東は、汽車も通らぬヘンピなところで、この地へ開業以来、十二年間も謝恩会には御無沙汰していたが、どうやら汽車も開通するようになったので、でかけたのである。
盛大な謝恩会だ。恩師の大先生をかこんで三百名の門下生があつまっている。天下に知名の学者から医局の若い学者まで、一門の精鋭をすぐった晴れの席、一門の威風は堂々と場にみち、東海の辺地に足の医者をもって自ら任じる先生は、うれしいやら、心細いやら、同門の威風にすくむ思いであった。
会がはじまると、指名をうけた人々の挨拶があったが、絶えて久しい出席のために、先生も指名をうけて、挨拶しなければならなかった。
「頼朝が流され日蓮が流された離れ小島のようなこの町にも、戦争以来、温泉療養所ができまして、あたかも当物療科の延長の感があり、そこの諸先生方と親しくしていただきまして、まるで医局にいるような気分にひたり、心からうれしい日夜をすごさせていただいております。孤島のようなところに開業しておりましたので、謝恩会にもいつも欠席しておりましたが、温泉療養所の先生方のおかげで医局のなつ
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