かしい気分をよびさましていただき、本日は矢も楯もたまらず参りましたが、大先生の晴れやかなお顔を拝し、又、三河教授の日夜お忙しいのに御健康そのもののお顔を拝したり、先輩の先生方や、医局の先生方にもお目にかかれて、私も十五六年は若返った思いにうたれ、今浦島の感なきを得ないのであります。この席から厚く御礼申上げます」
こう云って先生は一礼ののち、
「さて、次に、ひとつ、お願いがございますが、昭和七年満州事変以来、ポツポツ亜黄疸《あおうだん》の患者があって肝臓肥大に気付くようになりましたが、その当時はちょッとフシギと思った程度で、たいして気にも留めませんでした。ところが、昭和十二年末ごろから、年々かような患者を見うけることが急速に、かつ、非常に多くなって、殊に感冒患者はほとんど肝臓肥大で圧痛あることが普通のこととなったのであります。そこでこの四五年というものは、アナタも肝臓がわるい、アナタも、アナタも、と言わざるを得ないものですから、あの医者は肝臓医者だ、あそこへ行くと、みんな肝臓にされてしもう、こう言って呆れてほかの医者へ転じてしもう人も多くなりましたが、又一方には、遠路はるばる宿をもとめ
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