「肝臓先生」。
 その景品は牛肉のヤマト煮のカンヅメ。これを象のひく四ツ車にのせ、長いヒモがつけてあって、ひっぱる仕掛けになっている。
 司会者が立上って、
「さて、この景品には一つの約束がついております。まずクジをお当てになったお方がヤマト煮のカンヅメを赤城先生のオツムに乗せてさしあげます。赤城先生はオツムのカンヅメを落さずに、象をひいて、三べん座を廻っていただかねばなりません」
 クジを当てた娘は、美しくて、しとやかで、この町で評判のお嬢さんであった。事の意外に驚いたのは赤城先生とお嬢さんだが、一座の人々はヤンヤ、ヤンヤと大よろこび、大カッサイ。
 お嬢さんも仕方がない。意を決して、カンヅメを赤城先生の頭にのっけてあげる。サラバと先生も立上ろうとしたが、カンヅメが落っこちそうでグアイがわるいから、かるく手でおさえ、象をひッぱって静々と三度廻った。拍手カッサイ、鳴りもやまず。
 記念すべき一日であった。
 まことにウカツ千万な話だ。赤城先生はこの日に至って、自分が町の人々に「肝臓医者」とよばれていることを、はじめて知ったのである。
 先生は感慨無量であった。
 先生と肝臓炎との出会は
前へ 次へ
全49ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング