るから、いろいろ金目の書画や骨董類があった。東京の本邸に所蔵していた宝物を焼ける前に別荘へ疎開させておいたから、そっくり残っていたのである。花子夫人が売ったのは、その何分の一かで、全体から見れば微々たる数であったらしいが、彼女が道具屋から受けとった金は三百万か四百万であったという話であった。光一は、義母が宝物の一部を売るのを知っていたが、黙っていた。いや、そればかりではない。義母に恋人ができたことを早くから知っていたが、見て見ぬフリをしていたのである。
「ママサンはまだ若いんだからね。それに、あの美貌だもの。ボクみたいの青年にママサンなんて呼ばれる気の毒さ。はやく、ただの女にしてあげたかったのさ。アッハッハ」
 と、妙に物分りのよいことを言っていた。そこで目を光らせたのは狂六だ。
「ウーム。してみるてえと、前山一作殺しの犯人は絶世の美女かも知れないなア。それだったら、もう、文句はねえや」
「独断的な推理は止した方がよいですよ。殺人なんか、なかったのかも知れないじゃないですか」
「よせやい。やに物分りのよさそうなことを云うじゃないか。ボクも軽率だったよ。この犯人のすばらしさを忘れていたね
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