。とにかく医者が見ても分らないように殺したのだからね。すばらしいことだよ。このすばらしさを忘れちゃいけないね。そして他に犯人の有りうる状況をつくるために、並木先生の診察を拒否したとすれば、これまさに芸術的な名作じゃないか。こッちは、このウチから追放されやしないかと思って、アブラ汗をかいちゃッたからね。トンマな話だよ。並木先生だの玄斎先生なぞに、こんな芸術的な殺人ができる筈はねえや」
「ハッハッハ。一刀彫の彫刻よりも名作らしいですかねえ」
「生意気云うな」
ところが、ある日のこと、光一の妹のマリ子が会社へ出勤するため急いでるとき、ちょうど朝の散歩に肩を並べていた兄に云ったのである。
「お父さんを毒殺したのは兄さんでしょう」
「よせよ」
「ママサンに恋人ができるように仕向けたのも、ママサンが家出するようにそれとなく智恵をつけたのも、兄さんよ。ママサンの恋人って、兄さんの友達のヨタモノじゃありませんか」
「そうかしら」
「しらッぱくれるわね。兄さんて、慾の深い人ね。そんなにまでして、財産が欲しいのかしら」
「ボクもマリ子クンに一言云っておくけどね。お父さんを毒殺したのは案外マリ子じゃないか
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