言い寄りましたが、花子夫人が風に吹かれる柳の枝のようにうけ流しておったから、風に吹かれて、微風にですな、ソヨソヨと、柳の枝がゆれる。いい風情ですな」
「何を言うとるですか、このオヤジは。どうも、頭の方へきているらしいな。しかし、玄斎先生が口説いたというのは初耳だね。あのジイサンがねえ。しかし、たしかに、ちかごろ、めっぽう色ッぽいよ、口説きかねないねえ。緩急自在、ジリジリと、剣の極意によって、神妙だからねえ」
「しかし、玄斎先生のほかにもう一人、花子夫人に云い寄った初老の人がある。芸術家だね。彫刻をやっておる。しかし、気をせかせるばかりで、言説に風情がない」
「アレエ! アンタ、知ってたのか。おどろいた。誰から、きいたね」
「とにかく、性慾の問題です。性慾の強い人が、女に言い寄りもすれば、結局、人を殺すようなことになります」
「よせやい。ろくに女も口説けないような陰にこもった人物が一服もるのだよ」
 そうこうしているうちに、花子夫人が行方をくらましてしまった。恋人ができて、東京で新世帯をもったらしい。
 行方をくらます前に、道具屋をよんで、相当数の金目の物を売り払った。前山家は財産家であ
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