つまり、そうか。これは、決定的だな」
「そうですよ。まさに、文句ないです」
「ウーム。アイツはヤブだからな。どうして当家の先代はあの先生に学資をだしたんでしょうね。ムダなことをしたもんだなア」
「アナタの一刀彫の手並も似たもんじゃないですか。ムダなことをしてるなアと誰かがきっと云ってますよ」
「よせよ。キミはうるさいなア。全然オレはキミと会話してるじゃないか。キミと会話するんだったら、こんな無理しなくとも、いつでも、できるじゃないか。今日は全然ダメだ。奥サン失礼いたしました」と狂六は苦心のカイもなく、退却せざるを得なかったのである。
殺人事件の巻
ところが、一月ばかり床についたのち、一作氏はなんとなく死んでしまったのである。
「どうも、変ですなア。主治医として、まったく面目ありませんが、病因がハッキリ致しません。はじめは高血圧のせいで、他にさしたることはないように考えとったのですが……」
と並木先生の代りに選ばれて診察に当った太田先生が葬式がすんだ後になって、光一にもらしたのである。
「すると、他殺だという意味ですか」
「イエ。そうじゃないです。ともかく、解剖して病因
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