をたしかめるべきだったかも知れないというだけです」と、太田先生はごまかしたが――ごまかしたわけでもないが、光一がネチネチと追求すると、結局ごまかしたような結論になってしまうのである。
「ねえ、先生、なにか特殊な毒薬を用いた場合に、専門のお医者が見ても、外部からでは毒殺かどうか見分けがつかないような薬品といったらどんなものがあるでしょうか」
「そんな小むずかしい薬品を使って毒殺するなんて例は、日本に於ては考えられませんよ」
「なぜですか。戦争に負けた国は、毒薬の使い方もできないものですかねえ」
「一般に、素人がそれを使いこなす生活や知識の基礎がないですからね」
「秘密に勉強できないのですか。たとえばですね。日本人は読み書きの教育が普及していることは世界一だと云われてますが、そういう毒殺の方法が文字に書かれて公表されているとすれば、それでもやはり、日本人は毒薬を使いこなす生活の基礎がないと云えるでしょうか」
「そんな毒薬は一般に入手困難ですよ」
「殺人のためには犯人は必ずや相当の無理はするでしょうね」
「とにかく殺人じゃないです」
「なぜですか」
「今となっては手おくれですよ。解剖しなかっ
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