か」
「アナタ、パンパン宿以外に泊ったことないでしょう。たとえば熱海。アナタ、どこへ泊った? 糸川しか知らないでしょう」
「よせッたら。キミは黙秘権というのを、やれよ」
「この際アベコベでしょう。アナタがそれをやるんですよ」
「うるせえなア。なんのために来たんだか、分らなくなッたじゃないか。実は、その、並木先生の問題ですが、先生が一服もるなんてとんでもないです。そもそも医者は毒薬に通じておりますから、毒殺すれば必ずバレることを知っております。ですから、毒殺は素人が用いる手口でして、ボクは探偵小説をよんでおりますから――もっとも、医者が毒殺の手口を用いた例も二三ありますけど――そういえば、かなり、あったかな。音読んだのは忘れちゃった。奥さんも探偵小説の愛読者だから、ごまかせねえかな」
「私が並木先生をおことわり致しましたのは先生のお見立がオヘタでいらッしゃるからですよ。いかに探偵小説を愛読いたしましても、まさか先生が一服おもりになるなんて考えやしませんわ」
「じゃア、ケンギ晴れたんですか」
「狂六先生、シッカリしてよ。ボクまで恥ずかしくなッちゃうよ」
「そうか。見立てがオヘタだから、と。
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