、危機打開のために、イヤでも彼が孤軍フントウ立向わねばならないようになってしまった。そこで狂六は光一に手引きしてもらって、ひそかに花子夫人と会談して、
「つまり、一服もるというのも一刀両断に致すというのも、ボクの失言でして、本人がそんなことを云ったわけじゃないです」
「だけどさア。要するに、彼らの心にあることを、アナタが云い当てたんじゃないかなア。ボクにだって、その実感がビリッときたですからね」
「よせよオ。キミが横から口をだしちゃいかんじゃないか。キミは退席しろよ」
「オブザーバアですよ。それに貞淑な良家のマダムと対座するのがアナタ一人というのは今日のこの混乱せる時代を背景とし、またこの変テコな雑居族を背景として、良識ある者は放置できないです」
「変なことを云うない。シリメツレツなのはキミじゃないか」
「ねえ、ママサン。この人はね。パンパン宿なんかの部屋に落ちた陰毛を拾いあつめて毛筆をつくってるんですよ。それでママサンの居間と寝室のゴミを毎日朝晩ボクに掃き集めてくれッて云うんですけど……」
「よせよ。ボクは旅先の旅館なんかの、と云ったんだ。パンパン宿なんて云いやしないよ。失礼じゃない
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